今日は参議院選挙の投票に行った。日本にお住まいの方は,海外在住の日本人の選挙といわれてもピンとこないかもしれない。
だいたい,我々永住者は,日本に税金を一切納めていないわけで,それでどうして選挙権があるのかと思う人もいるだろう。でも,考えてみて欲しい。私は日本人なのである。日本人なら,日本人としての権利を行使できるのが当然である。
「納税の義務を免れているくせに,権利だけ主張するのか?」
と思われる方もいるだろう。
だけど,納税については,政府間の取り決めで,住んでいるところに税を納めることで,お互いOKにしようということになっている。我々は日本国から何もサービスを受けていない。そんな国に税金を収める必要はないだろう。逆にオーストラリア人でも,日本に住んで,日本の住民税を払っている人だってる。第一,消費税は,どこの国の人だって,日本で買い物をするだけで払わざるを得ない。そういうわけで,どこの国の人はどこに税を払うという線引きは,国際化の進んだ今日,とても難しい問題である。
振り返って,選挙権というのは,どうか。日本に住んでいなくたって,日本の政治,法律が,我々海外在住者に及ぼす影響は少なからずあるのだ。
たとえば,二重国籍の問題。
日本は二重国籍を認めていないが,これを認めている国は結構たくさんある。
どうして二重国籍がいけないのか?
みなさん,真剣に考えたことはあるだろうか?
二重国籍を認めている国があるのに,うちの娘が成人したとき,オーストラリアと日本,どちらか一つを選択しなくてはならない。
どうして?
両方取るといったら,何が不都合なの?
ちなみにオーストラリアは二重国籍を認めているから,「両方」という答えを受け入れる。だが,日本政府がこれを認めない。「あなたはどちらか一つを選択しなければならず,もしオーストラリアを選択したら,日本の国籍を捨てなければならない。」と勝手に決めているのである。
どうして?
お役所の論理はいろいろあるかもしれない。でもそれは,あくまで,お役所仕事の論理であって,我々の知ったこっちゃないんだよ。
役人は,国民の公僕であって,江戸時代のように,お上がこうだから,下々がそれに従えっていうのは通らない。
国民の都合をなるべく取り入れるのが,お役所の仕事のはず。ただ,現在の日本のお役所が,あるいは法律がそうなっていないというだけのこと。
そういう意味で,国を離れていても,その国の政治や法律のことに関わる権利は当然あるのである。
…というような,我々の言い分が通り,国外在住日本人でも国政選挙の投票ができるようになった。これは,確か,2004年前後のことだったと記憶している。
海外在住でも,本籍がどこかにあるわけで,その本籍地の選挙管理委員会から,「在外選挙人証」というものが発行される。
これを最寄りの日本政府公館(大使館や領事館など。メルボルンの場合,在メルボルン日本国総領事館)経由で申請して,取得することにより,海外にいながらにして,国政選挙に投票することができるようになる。
当初は,衆参両院の,比例代表区のみに投票が認められたが,上記のように在外選挙人証は,本籍地の選挙管理委員会から発行されているので,今回から,その地方の選挙区選挙についても投票が認められるようになった。私は2005年の衆議院選挙から,在外投票したが,このときは比例代表区のみだった。今回の参議院議員選挙は登録している東京都中野区選挙管理委員会から,東京都選挙区にも投票できるようになった。
さて,在外選挙の方法であるが,実際には3種類の方法が選択できる。
一つは,最寄の日本国政府公館に出向いて投票する方法。
次に,自分が登録している選挙管理委員会に,在外選挙人証を郵送して投票用紙を郵送してもらい,この投票用紙に記入して再び選管に郵送する方法。
最後は,たまたま,投票期間中に日本にいる場合に,その選挙管理委員会に出向いて,不在者投票と同じ扱いを受けて投票する方法である。
私は,最初の方法を選択した。投票できる期間は,公示日から,本当の投票日の1週間前である。
実際には,公館で投票用紙を記入するが,これを当該選管に郵送してもらうという手続きを踏む。
当日は土曜日だったのだが,在メルボルン日本国総領事館は,メルボルンセントラルのオフィスビルの45階にあり,土曜日はそのビルは原則として閉まっている。そこで,お手伝いの人が入口付近に常に待機していて,日本人らしき人が入ろうとすると,内側からロックを解除し,投票に来たことを確認すると中に入れてくれる。
そして,エレベーターまで誘導し,45階のボタンを押してくれる。45階に着くと,出迎えの人が,領事館の入口に案内してくれる。
入口付近に受付がある。ここで用紙に氏名と選管番号を記入。在外選挙人証と身分証明書を提示し,本人であることが確認される。この時点で,受付の人によってその用紙に選管の住所が記入され,奥に通される。
用紙と在外選挙人証を持って奥に進むと,そこの受付の人が,在外選挙人証に今回の投票を行った記録を記入。次に,投票用紙とそれを入れる封筒。さらにその封筒を入れる大きめの封筒を渡される。
まずは,比例代表区から。
投票用紙と封筒を持って,記入ブースへ。そこには,きちんと立候補人,政党が示されたファイルが置いてあるので,それを見ながら,間違いなく記入できるようになっている。
投票用紙に記入したら,それを小さい方の封筒に入れ封をし,その封筒を大きい方の封筒に入れて封をする。大きい方の封筒には氏名と選管の番号を書いて,受付の隣の人に渡す。
受付の隣の人は封筒の記入事項と在外選挙人証をつき合わせ,間違いがないことを確かめる。
その後,その封筒をさらにその隣の立会人に渡し,立会人のハンコをもらう。
そうすると,これをさらに郵送用の封筒に入れ,当該選挙管理委員会の住所を書いて完了。これを,後刻郵送してくれる。
以上を選挙区投票についても繰り返す。
土曜日の昼ごろ,おそらく一番混んでいると予想される時間帯だったが,我々夫婦以外に投票所にいる人はいなかった。エレベーターを待つ間,親子連れと一緒になったが,その母親が投票したのかどうかは不明である。
とにかく,静かな投票だった。
しかし,こんなに閑散とした投票所であっても,朝9時半から午後5時まで,いつでも投票を受け付けている。地階でロックを解除したり,エレベーターまで誘導する人2名。45階で入口に誘導する人1名。受付1名か2名。投票受付1名。投票後の封筒確認する人2名,立会人が1名。合計8-9名が常に詰めていて。これが7月13日から22日までの10日間行われたわけだ。
我々の選挙権を確保するために,ここまでしていただけることについては,率直に感謝したいと思う。また,ここまでしてせっかく守られている権利なのだから,海外在住の有権者には,是非とも投票に行っていただきたいと思う。
今回,私は,どうしても日本政府に物言いをつけたくて,一票を投じた。公職選挙法だかなんだかに触れるのだそうで,具体的な話は書かない。
私の一票がどの程度生きるかは分らない。しかし,同じ気持ちで同じような投票をした人,あるいはこれからする人がたくさんいることを祈念する。
現在はここに永住するつもりで住んでいる。しかし,5年,10年先を考えたとき,また日本に帰る事情がでてくる可能性はゼロではない。そのときに,安心して帰れる日本であって欲しい。
また,私の娘だって成人すれば,日本に職を求めるかもしれない。そのとき,帰国子女であるからといって,あるいは娘がオーストラリア国籍を選択したからといって,不当な処遇を受けない国であって欲しいと思う。そういう願いを夫婦で,比例代表区,選挙区,計4票に託したつもりである。