今日,某都市銀行に行った。いくつかの銀行が合併してできたため,名前をつなぎ合わせて,長くなり過ぎ,仕方ないので最後の方はアルファベット3文字にしてしまった,有名で,大きな銀行の練馬支店である。
今回の里帰りのついでに,たまたま日程が合っていたので,ある同窓会に出る予定なのだが,それに関連したある目的のお金を振り込むことが用件だった。
まず入って驚いたのが,店内の狭さ。しかも入り口付近にATMが並んでいて,長蛇の列ができている。窓口に行くには,その人々をかき分けるようにして奥に進まなければならない。もう何年も日本の銀行なんか利用していないので,「わたーし,オストレィリャからきましーた。おかーねふりこみのことしたいですね。わたしなにやりますいいですかー?」と,へんな外人の真似をした。というのはウソであるが,とにかく面倒なので,奥に進んで,すぐにほほえみかけてきたお姉さまにお任せすることにした。
「あのー,ちょっとお金を振り込みたいのですがー…」というと,親切に用紙を出してくれて,書き終わったら,あちらで,整理券を取ってお待ちくださいとのこと。
ほいほい,あんた分かりやすい。なになに?ATMでやれば手数料が安くすみます?えー!?手数料取るの?うそでしょう?だって,同じ銀行で送れば手数料がないかと思ったから,わざわざこの銀行に来たんだぞ。それにあんな長蛇の列に並んでるほど,こっちゃあひまじゃねえんだよ。なんて毒づいていたのは心の中だけで,やんわりと,「いえー,私はここの銀行の口座持ってませんしー,紙でやりますー」とボケをかましてみせた。
さてさて,しょーがねーな。えーと,振込先の口座の種類ね,えーっと「普通」は1か,何だ?なんで数字を入れる欄にぜーんぶ薄く8って書いてあるんだよ,完全にシステムの都合だな。まあいいや。1と。次,えーと支店か,XXX支店っと。
それからー?口座番号と。また薄ーく8が並んでやがる。きもちわりい。8の字無視して別の数字を書く方の気持ちになってみやがれってんだよ。
でもって次が,口座名だな。よっしゃ。「○○友会NN事務局 東京 聖太郎」と。ちなみにこのNNのところには卒業年度が入る。ただし私の卒業年度ではない。
えーっと,あ,これのフリガナを書けってか。よーっしゃ,長いけどいいだろう。「マルマルユウカイNNジムキョク トウキョウ ショウタロウ」ときたもんだ。えーっと東京 聖太郎さんの聖太郎はホントにショウタロウって読むのかな?ひょっとしてセイタロウかな?定かでないが,まあ,だいじょーぶだろう。
なんて具合で空欄を埋めていく。できたぞー。でもって整理券だな。122番。待ち時間は約3分という表示まで出る。細かいねー。さすが銀行だ。
そして,3分も経たないうちに整理券番号121番のお客様のご用件がお済みになり,俺の番だ。おお,よかった。向って左のお姉さんがかわいいんで,この人にやってもらえたらと思って,ちょっと念力かけてたんだよ。ラッキー。
「お客様,お振込みでございますね?」
そうですよー,あなたになら,大三元だって,国士無双だってなんだって振り込んじゃいますよー。
え?ATMでやれば手数料が安く済みます?あ,分かってます。でも,あなたにやってもらいたいから,私はここに来たんですよー。
彼女はかわいい指で私の書いたものをなぞって確認している。
「はい,これで結構でございます。それでは念のため,お振込み先の口座を確認いたしますので,少々お待ちください。」
…待つ。あなたのためなら待つ。
十数秒。長かったような短かったような時間が経過した。マウスをクリックしながら画面に見入る彼女の,せっかくのお顔の眉間にちょっとシワが寄った。
「あ,少々お待ちください。」
いいよ。待とう。ここまで来たんだ。あなたにお任せします。
彼女は隣の隣ぐらいの席で事務処理をしていたセンパイの大きなお姉さまのところに行って,一言二言。そこで大きなお姉さんは彼女の席にやってきて画面をにらむ。二人でこしょこしょ内緒話をしている。結局センパイのお姉さんは,彼女が「これで入れていいんですよね?」っていう質問に,即答をしきれず,首をかしげたまま,その角度を保ちつつ,店の奥の席にいる,一番大きなお姉さまのところに行った。(なお,お分かりとは思うが,ここで言っている「大きな」は体の大きさではなく,年齢の大きさのことである)
一番大きなお姉さんもやってきた。なにやら3人でまたコショコショコショ。
さすがの一番大きなお姉さんも首をかしげている。やっぱり,振込み用紙に,「あなたに一目ぼれしました。今夜,お食事でもいかがですか。OKなら黙ってウインクしてください」と小さく書いたのがまずかったのだろうか?イヤイヤイヤイヤそれは妄想の世界だけのことで,本当にそんなことするわけないじゃないか。
一体何が悪いんだ。なんかこれじゃあ,オレが相当ヤバイ,怪しいやつみたいだぞ。
3者会談は,永遠に続くかに見えた。その後3人は一番大きなお姉さまの席のそばであーでもない,こーでもないとやっている。おーい,おーい。早くしてよー。
やっとハドルが解けた。大きなお姉さま二人は自分の席に戻った。
彼女が戻ってきて,私の書いた振込み用紙を指し示した。ゴ,ゴメンナサイ!トウキョウ ショウタロウさんではなく,トウキョウ セイタロウさんだったんでしょう?
「あのー,申し訳ないのですが…」
「はあ」
「ここのNNのところがですね」
「ええ」
「実際には,XXXXになっているんです」
「はあー?」
つまり,こういうことである。仮にこのNNが85だったとする。すると,登録してある口座名のフリガナのこの部分が,「85」ではなく,「ハチゴー」になっていたというのである。
この娘,いや3姉妹合わせて,そろいもそろって,おばかさんだったのね。
私の恋は,儚くもこの10分であとかたもなく,消え去ったのであった。
なんでも,「万一間違いがありました場合は,送金取り消しの手数料などもかかってしまいますので,間違いがないかどうか….」ってさあ,そりゃ間違いないだろうよ。だって銀行も支店も口座番号もおんなじで,85ってえのとハチゴーっていう二つの別の口座が有るかもしれないって言ってるんだろ?
そんな可能性あるわけねーじゃねーかよ。ちょっと頭使えば分かるだろうが。それでも気になるっていうんだったら,すぐに,ハチゴーって書き直せばいいだけのことじゃないのかよ。おばかさん3姉妹で,いままで何の相談してたんだよ。「やだー,あのオヤジきもいー」とか言ってたのかよ?
あのさあ。こんなに人使って,これっぽっちのフレキシビリティーもなくって。大きなお姉さん二人の手もわずらさせて。こんなに時間使って,でもって同じ銀行の支店間の送金なのに,手数料300円,消費税合わせまして,315円いただいておりますっていうのは,何なんだよ?で,あの長蛇の列に並べば,これが少し安くなりますがって恩着せやがって。何なんだこの銀行は。ふざけるのもてえげえにしやがれ。
これに比べれば,サービス最低のオーストラリアの銀行の方がよっぽどマシである。
大体,送金手数料なんて,オーストラリアで取られたことない。それから,いまどき内税が当たり前なのに,300円に消費税合わせまして315円とか,アニこまけえこといってんだよ。消費税とあわせて300円きっかりとかにしろよ。おかげでオレの財布の中にはドラえもんの4次元ポケットができてしまって,その中に大きなブタの「ハワイ旅行貯金」の貯金箱があって,1円玉と5円玉がジャランジャランしてるよ。
これでグローバライゼーションの嵐が吹き荒れるマーケットで勝ち残っていけるとでも思っているのかよ。合併に合併を繰り返して,訳わかんない銀行名にして,オレを浦島状態にしやがったのは許してやるとしてだな,なんとか数字だけ揃えて,しかも国民の税金使って帳尻合わせたりしやがって(オレは海外に住んでるから関係ないといえばないが),こんな態勢で,勝ち残っていけるわけないだろうが。
嗚呼,ニッポンの日暮れは近い。
オーストラリアも融通利かないよ。それぞれ一長一短?