いったいどうしてしまったのか？家族の一員の殺人，遺体切断事件が2件相次ぎ，さらに身元不明の切断死体もでてきた。

ということで，世間は大騒ぎになっている。
しかし，私は一連の報道（といってもWeb版新聞とNHKのニュースだけだけど）を見ていて，別の意味で「いったいどうしてしまったのか？」と感じている。

別の意味というのは，なんだか，したり顔のその道の専門家が出てきて，
「家族の体を切り刻むという，非常に冷酷な行動に走っている。非常に異常な事件である。家族の間に何があったのか？」
といった論調を繰り広げ，これらの事件が，本当に異常なもので，世の中もう狂っているという方向に持っていこうとする意図がミエミエであることだ。さらには，被害者と加害者の関係，その裏にあった事情というものを根掘り葉掘りして，視聴者あるいは新聞，雑誌の読者の興味をいたずらに煽り立てている。

今日になって，Asahi.comで，ようやく納得できる記事を見つけた。しかし，そのタイトルも上記の範疇と一線を画するものではなく，とりあえずは同じ論調かのように見える見出しで人をひきつけている点で，他の記事となんら変わるものではないし，内容としても，前半は同じ論調から始まっている。しかし後半に至ってようやく私を納得させる意見が現れる。

その納得できる意見とは，バラバラ殺人というのは，死体を隠蔽するために犯人が思いつく，ごくありふれた発想であるということ。重いものは分けて処分するという，止むを得ない処置であることである。その犯人が残忍かどうか。その動機が根深いかどうか，あるいは計画的な犯行かどうか。そういうこととは一切関係ない。いや一切というのは専門家でもない私から言えることではないが，少なくとも，世間で騒いでいるような異常な事態が立て続けに起きているという見かたは，的を射たものではないという点では，大いに賛同できる。

この人を殺したら，自分も死のうとか，自首しようというのでない限り，犯人は罪を逃れたいことに違いはなく，そうなると，実際問題として，死体を処理しなくてはならない。そのとき，他の誰にも知られず，都会の真ん中で一人の人の体をすべて消してしまうには，どうするか？これはもう，切り刻んで分けて運ぶしか手がないのである。

夫殺しの方のニュースを聞いて，桐野夏生の小説「OUT」を連想してしまった人も多いと思う。あの小説の中で死体を切り刻むのは，普通のおばさんたちであり，友達の殺人を隠蔽したいという動機だけで行動を起こしている。あのおばさんたちは何も特別残忍なわけではない。

ということで，ここまではAsahi.comは，いい所を突いており，思わず膝を打つの感があった。
ところが，Asahi.comのその記事では，さらに踏み込んで，「家族だからこそ」という発想についても触れている。
これはどういうことかというと，家族の死を受容するための儀式が必要であり，通常なら葬式を開くが，これが異常な形で行われた結果が遺体の切断ということだという。うーん，そこまで深読みするか？死を受容するための儀式という発想はわかるが，またもや「異常な」という方向に導いているところは首を傾げる。

首を傾げたついでに，同記事をもう一度読んでびっくり。この見解はなんと，美術評論家に聞いたものだった。え？美術評論家に犯罪心理が分かるのか?まあ，一般市民よりは参考になると思ったのかもしれないけど，これはあまりにも読者を馬鹿にしている。大体，美術評論家という職業は，数の論理からいったら，普通の職業ではない。いい悪いの話をしているのではなく，純粋に多い少ないという意味でである。

その道の専門家に犯罪心理について聞く。これなら分かる。実際，「遺体切断は，殺人後のありふれた行為」という旨の発言をしている人は，元監察医務院長であるから，説得力がある。しかし，関係ない分野の，しかも人数的に見て「異常」なグループに属する人物に，こんなことを聞いて，いったい何になるというのだろう。もちろん，こんな考え方もあるということを，書くことには異議はない。しかし，これは単に，「大変興味深いご意見でございました。」といえる程度のものであり，先の現場の専門家の意見と同列にして掲載できるものではないだろう。これも「異常」という言葉を言わせたいという不純な動機から掲載したものではないのか？この意見の出所を知って，ますます疑ってしまった。

もちろん，遺体切断なんて，正常ではない。しかし，異常なのは，殺人という行為そのものである。最近騒がれている一連の事件の，「遺体切断」という部分は，殺人という異常行為の後の，ありふれた行為であり，これがたまたま連続したというだけのことである。

大部分の週刊誌は，ニュースをひねったり，掘り下げて，読者の興味を煽ることで成り立っている。これは分かる。しかし，マスコミ全体で騒ぎを意図的に盛り上げるような行為はどうであろうか？同じ根（＝会社）から出ているとはいえ，新聞やテレビのニュースがこういうことに加担するのはいい加減にして欲しい。