アメリカでのお話し,あるとき,弁護士と老人が飛行機で席が隣同士になった。
老人はずっと黙ってすわっていたので,弁護士は気を利かせているつもりで,
「あの,失礼ですが,退屈しのぎにゲームでもやりませんか?」
と老人に話しかけた。このご老人,実は非常に疲れていたので,そろそろ眠ろうかと思っていたところだった。そこで,
「いや,結構。」
と断った。ところがお節介で,説得のプロを自負するこの弁護士,遠慮していると思い込んだ。
「まあ,そういわず,どうです。クイズなんか。お互いクイズを出し合い,答えられなかったら,5ドル相手に払うなんていうのは?」
「いや,結構。あんたは,たぶんインテリだから,わしなど,到底かなうまい。やめときましょう。」
「何をおっしゃいます。ご謙遜でしょう。では,こうしましょう。私の質問に答えられなかったら,あなたは5ドル私に払う。でも私があなたの質問に答えられなかった場合,私はあなたに500ドル差し上げます。これでどうです。」
あんまりしつこいし,この条件ならうまい話だと思った老人は,これを受けることにした。
ではと,まずこの弁護士が,勝手に自分を先手に決めて,クイズを出した。
「地球と月の間の距離は,何マイルでしょうか?」
老人は即座にポケットから5ドル札を出し,弁護士に渡してギブアップした。
さて,老人の番だ。
「丘を登るときは3本足。降りるときは4本足。さて,なーんだ?」
問題を出すと,老人は即,眠りについた。
アメリカの旅客機なので,インターネットに接続できる。弁護士はラップトップをあけ,インターネットでググってみたり,思い当たる友人にメールしたりして,答えを探した。しかし,友人の誰も答えを知らなかったし,Googleを持ってしても,ヒントひとつ見つからなかった。
約一時間後,弁護士はついにあきらめた。
寝ている老人を揺り起こして言った。
「すみません,ちょっと,あの,降参です。はい,ここに500ドルの小切手があります。受け取ってください。」
「ああ,それはご丁寧に。どうも。」
老人はまた寝入った。
弁護士は,正解が知りたかった。しばらく黙っていたが,ついにこらえきれず,再び老人を揺り起こした。
「ねえ,教えてくださいよ。丘を登るときは3本足。降りるときは4本足。これ,何なんです。動物?何か別のもの?」
老人は即座にポケットから5ドル札を出し,弁護士に渡すと再び眠りについた。