NHKに出てた!?

私は,中学からいわゆるエスカレーター校に通った。高校から大学へは,基本的には落第さえしなければ,入学試験を受けずに推薦を受けて入学できる。ただし,どの学部に行けるかは,成績次第だし,油断すれば容赦なく落第させられる。中学では1学年250名のうち,1-2名は必ず落第が出た。高校となると,もっとすさまじく,1学年18クラスというマンモス校だったが,そのうち1クラス分は落第する。クラス単位でならせば,平均して2-3人,多いところではクラス50名の10%が落第というケースさえあった。
したがって,こういうふるいにかけられながら,中学高校6年間で卒業して無事大学にたどり着くというのも,案外大変なことなのである。

こんな前置きはどうでもいいんだけど,とにかく,高校3年の3学期のある日,大学への推薦発表があった。私は無事,第一志望の工学部に推薦が決まった。中学の2-3年と高校の2年で同じクラスになったKも,第一志望の経済学部の推薦が取れた。そこで,Kと二人で中学の担任のところに報告に行こうということになった。と,ここまでも,まだ前置きだった。

さて,本題は,その帰り道である。駅へ向かう横断歩道の信号待ちで,ふと,同学の女子高校の制服を見かけた。すると,そこに見慣れた顔があったのだ。見慣れたといっても,本物を見るのは初めて。見慣れていたのはテレビのブラウン管の中だけだった。
「おい,K,となりの女子高の一団!…ばか,露骨に見るな。そっと見ろそっと。ほら,あの子。あれそうだよな?」
「あー,そうだそうだ。うそだろ,うちの学校だったのかよ。」

それは,当時,NHKテレビで夕方やっていた少年ドラマシリーズ,SFの「未来からの挑戦」に出ている女の子だった。セーラー服がよく似合う清楚な子で,役柄は脇役で,どちらかというと主人公の敵方だったんだが,最後は主人公の男の子にちょっと協力したりする役だったような記憶がある。

とにかく,その子はそのドラマの中で一番気に入っていたのだった。

なんと,山手線の同じ方向に乗るではないか!いったい家はどこにあるんだろう。確か,となりの車両に彼女は乗っていたような記憶がある。新宿で中央線に乗り換えなければならない。しかし彼女は池袋方面に行く山手線にそのまま乗り続けていた。よっぽど後を追おうかとも思ったが,そこまで執着があったわけでもなし,そこであきらめた。

さて,その女の子とは誰のことか?同世代の人だったら,ひょっとしたら分かるかも知れない。

気に入っていたとはいえ,別に大ファンというほどではなく,私もそのときは,名前さえ知らなかった。ドラマの次の回のときに,名前を確認した。
エンディングトレーラーに配役が出てきた。

佐藤美佐子

とあった。

ふーん。佐藤美佐子っていうのかあ。

それから数日後,情報屋のKが佐藤美佐子の情報をどこからか仕入れてきた。(ちなみに彼は現在,電通に勤務。情報屋はプロとして活躍している。)

「おい,あれはうちの学校の音楽の佐藤の娘だぜ!」

「ぎえー,そうなのかよ!?よかったー,声かけたりしなくて」

Kは確か音楽ではなく美術を選択していたから,習っていないだろうが,私は高校2年のとき,佐藤という教師に音楽を習っていた。なかなかおもしろいおじさんだったが,N響のホルン奏者で,音にはめっぽううるさく,ときどき雷を落とす怖い先生でもあった。それにしても,あのはげ親父(失礼!)からは想像もできないかわいい娘だ。

その彼女がやがて,ユニチカガールに選ばれ,有名になったのである。佐藤美佐子は本名だったが,このとき芸名が付いた。芸名を

紺野美沙子

という。

彼女は当時,女子高の1年生だった。私より2年年下である。

それから2年とちょっと経ち,私が大学3年になったとき,彼女も大学に入ってきた。

3年にもなると,週に何日かは午前中しか授業がない日とかがあった。

そういうとき,よく彼女(紺野美沙子のことではありません。私のガールフレンドという意味です)と渋谷とか,新宿で待ち合わせていた。

昼休み,キャンパスから駅に向かっているとき,駅の方からキャンパスに向かう紺野美沙子とすれ違った。一度ならず,2-3度はあったと思う。
明らかに,周囲と違う光が差しているように見えた。目立ってかわいかった。圧倒的だった。

「くそー,デートじゃなかったら,追っかけてるんだけどなー。ああ,電車に間に合わない。走んなきゃ!」

これからデートとはいえ,ついよそ見をしてしまったものだ。

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