牛が叫んだ!

題名からは想像もできないが,Dish Washer,日本語で言えば,食器洗い機,食洗機に関する,長い長いお話し。我が家のdish washerは,2台目。最初のやつは,この家を買ったときにすでに付いていたBosch製のもの。ドイツ製だったと思う。これが壊れたのが2002年のことだった。

現在はWirlpool製を使っている。これも一応ドイツ製かな?
これが,買って6年目でおかしくなった。

確か7月の第二週の後半ごろだった。食後に回したのに,就寝前,途中で止まっていることを発見。電源スイッチがいつもとちがって,点滅していた。

翌朝,マニュアルを引っ張り出して原因を確かめた。「フィルターがつまっていないか?」だって。これはチェックしたが,異常ない。
「これがだめなら,電源ボタンを長押ししてみろ。」というので,やってみた。おお,また動き出した。が,すぐに元の状態に戻る。
となると,もうサービスを呼ぶしかないと書いてある。

まずはWirlpoolのオーストラリアオフィスに電話,そこでいろいろと症状を説明した。

「わかりました,ではサービスを呼びましょう。で,それはフロントローダーですか,トップローダーですか?」

???

え,Dish Washerにトップローダーなんてあんのかよ?うーん。が,次の瞬間,わけが分かった。

「あ,もしかして,さっきWashing Machine(洗濯機)っていっちゃったかな?」
「はあ,そうですね」
「ごめんごめん,ちがった,Dish Washerなんだよ」

まったく紛らわしい。Dish Washerだってwashing machineに変わりはないだろうって。
翌日会社でこのことを言ったら,オジーだってよく間違えるそうだ。よかった。

さて,そこで,最寄の代理店の電話番号を教えてもらい,そこに電話した。

「最初に症状を切り分けます。これだけで85ドルかかりますが,いいですね。その時点で,あとどのぐらいかかるか,見積もりをだします。」

これは,ここではよくあること。パソコンの修理なんかもそうである。納得。というか,それしか選択肢がないんだから仕方ない。

「それでは,今週は埋まってますので,来週の月曜日。午後12時から4時の間になります。」
今すぐというわけにはいかないのか…まあでもこれなら上出来だろう。
時間が大まかにしか分からない。これはオーストラリアでは常識。それでも午前と午後が分けられているだけましである。

その日から,食器の手洗いが始まった。あーあ,めんどくさい。手洗いだと,あんまり凝ったものを作る気にもならない。

次の月曜日。1時ちょい前にサービスマン登場。大きな体,赤毛のひげをはやした兄ちゃんだった。
熊のような体という表現があるが,こいつはどちらかというと牛のように大きい。そして牛のようにおとなしくって,口数も少ない。
でも,見た目はおっかないんで,「靴を脱いで上がってください」と言うのをついつい言いそびれた。

前面ドアの下にある横長のパネルを取り外して,その巨体を床にゴロンと寝かせて,外した口から中を除いている。
なんとも間抜けで,おかしな光景。よっぽど写真とっちゃおうかと思ったが,デジカメからシャッター音がでるので止めておいた。

「懐中電灯貸してくれねえかなあ」とのんびりという。
私は職業柄,夜,お客様の家を訪問することが多い。そのため,車の中で地図を見たり,門柱にある番地を確かめるために,キーホルダーに小さなランプをつけている。小さいけど,光は強力で,子供の手のひらなどは,反対側から照らせば,光が透けて見えるというしろもの。これを貸してやった。

「あ,あんがとね」

これを使ってなにやら見ること数分。やがて,巨体を重そうに順番に立て直していく。

「エレメントが壊れてるね。」

「エレメント?」

「ああ,ヒートエレメントだ。」

持参のノートパソコンでパーツ番号や値段を調べている。

「今日のお代が85ドル。パーツ代が,エレメントと付属品で103ドル。次回の工賃が60ドルぐらいだから,えーっと。多分238ドルから250ドルの間になるよ。パーツは….と,ああ,いま在庫がないから,シドニーから取り寄せだ。パーツが届いたらまた連絡する。」
そう言うと,サインさせられて,牛男は帰っていった。

それから待つこと1週間。なんの音沙汰もない。次の週の火曜日つまりは7月22日,くだんの電気屋に会社から電話してみた。
「あら,電話のメッセージ聞いてない?パーツは入りました。今からだと,えーっと,金曜日の午前中ですね。8時半から1時の間に行かせます。」
帰宅したら,本当に留守電にメッセージが入っていた。入れ違いだったか。
ということで,7月25日,待ちに待ったDish Washerが直る日だ!その日も自宅勤務にして待っていた。

いやな予感がしたので終日自宅勤務にした。もっとも金曜なのに,午後からまた会社に出るのはうんざりだ。

待てど暮らせど,来ない!

12時20分。もう辛抱できん。電話!
「え,まだですか?はい,ちょっとまってください。」
待つこと約30秒。
「お待たせしました。すみません。今日は作業が遅れ気味ですが,必ず行きますので。」
「ああ,それならいいよ。いや,予約を間違ってないか,心配だっただけだから。」
うーん,おれもここに住んで17年。人間がこなれて,角が取れてきたなあ。なんたってもうすぐ50歳。

電話を切って一分もしないで,ノックの音。ドアを開けたが誰もいない。あれ?
ノックは背後から聞こえる。なんだ。車庫の方から入ってきやがった。
また,あの牛の兄さんがやってきた。ニヤっと笑った。案外愛嬌のあるやつだ。

またも,黙々と仕事をしている。
やがて,キッチンに呼ばれた。
なにやらモーターの出来損ないのような部品を手に持っている。
機械はまだ回っていて,相変わらず電源ランプが点滅している。直らないとか言うなよ!

「これが壊れていたエレメントだよ。こいつで水を暖めてから,食器を洗うんだ。」
「まだランプが点滅しているけど?」
「ああ,これか,これは今テストサイクルを走らせているからだ。」
そういうと,テストを中止した。点滅は止った。

やった。やっと直ったかア。2週間,手洗いは辛かったなー。

その日,早速使ってみた。動いたぞー。よかった。

ところが,途中でなんだか止ってうんともすんとも言わなくなった。

おかしいな?

ちょっと電源ボタンを押した。

そうしたら,また動き出した。

???

うーん,直っているんだよな???

これが金曜日の夜である。

土曜日。

夜,来客があるので,夕方,今までたまった食器を洗うことにした。
すると,途中でまた止った!
しかも今度は,電源ボタンが点滅している。

ああああ!また元に戻っちゃったじゃないかよ!
絶望。

月曜の朝,電話。

「あら,直ってなかった。わかりました。えー,今日はだめですが。明日の午後ならなんとか」
「そう,じゃあ,そうしてください。ところでさ,もうこれ以上お金払わないよ。いいよね?」
「もちろんです。うちでは,業者の作業結果にも保証付ですから。御心配なく」
おー,オジーの業者にしちゃあ,話がわかる。気に入った。

というわけで,本日,火曜日の午後,3度目の自宅勤務となった。
先週金曜日終日自宅勤務。月曜は下痢と微熱でお休み。今日も午前中,ちょっとだけ出てまた帰宅である。
この4日間,会社に出たのはたったの3時間半だ。

12時から4時の間といっていたが,今日は2時30分を少し過ぎたころやってきた。
またもや牛の兄貴だった。

なんか,決まり悪そうにニヤニヤして,入ってくると,ふたたび作業開始。

こっちも忙しかったので,すぐに部屋に戻って,PCの前に座り,作業再開。

いつものように,黙々と作業しているようだ。おとなしい奴。正に牛だね。

5分ほど経っただろうか?

それはもう,突然だった。

大音声。

「オワー!グァ!Shxxt!Aggggghhh!」

牛が叫んだ!
それもありったけの声を振り絞っている。

「ど,どうした!」
キッチンに走っていった。(いやまあ,走ったというと聞こえがいいですが,実際には3歩ほどです)

牛の兄ちゃんは,またあの調子で床にねっころがっていた。
しかし,今日は場所が違った。機械からかなり離れたところである。

し,死んでんの?

いや,次の瞬間立ち上がった。
「Oh Shxxt! Oh!」
右人差し指を押さえている。
最初は指を詰めたか,つめを砕いたかと思った。そのぐらい指の先が異常に見えた。

「パーツに触っちまった。」

げえ,感電したのかよ。そりゃ叫ぶわ。

「え!電源切らなかったの?」
「いや,今切るよ」
電源コードを引っこ抜いている。

「冷やさなきゃ」
というが早いか,右人差し指を水道水にさらし始めた。

背後から覗いてみる。うわあああ,指の先が真っ白。縦に切り傷ができており,皮がめくれている。
あれ,これは切り傷なんじゃないのか?私の聞き違いではないか?きっと切り傷だ。どこに挟んだんだろう?

だが,不思議と血が出ていない。
そして,何やら,異様な臭いが立ち込めていることに気づいた。

「なんか臭わない?」
「あ,ああ,そりゃおれの指だよ」

「やけどしたんだ?」

「ああ」

「救急車呼ぶか?」

「いやいい。」

「大丈夫か」

「まあ,大丈夫じゃねえな。もっと冷やそう。」

また水道水をかけ,ペーパータオルをぬらして,それで指を包む。

「もう続けないでいいから」

「ああ,でもちょっとな」

そういうと,左手にドライバーを持ち替え,はずしたパネル類を付け直しにかかった。

機械を元の位置に戻すと,

「また連絡する。今日は続けらんねえ。そんじゃ」

といって帰っていった。

やがて電気屋から電話があった。

「Dish Washerの件ですが,彼が復帰できるか分からないので,確約できませんが,金曜日の10時から2時の間に予約いれていいですか?」

「ああ,いいよ。だめなら連絡してください。」

ということで,今週いっぱい,さらに手洗いが続く。

再び,絶望!

それにしても牛が叫ぶと恐ろしい。

びっくりしたこと 二つ。

1.牛も叫ぶ。というか,プロも電源を切り忘れて感電する。つーか,あんたプロ?

2.こっちの電圧240Vで感電すると,かなりやばい。指が焼け,裂ける。

まあ,とにかく死ななくって良かった。
心臓止まってたら,上に乗って飛び跳ねないと間に合わなかっただろう。

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