PCビギナー誌にもの申す

最近しきりに某N経BP社発行PCビギナー2011年1月号の宣伝メールが届く。
一度ならず,2度も3度も,この号の目玉記事が強調されている。

そのタイトルは,「Cドライブの大掃除で軽く、速く」曰く,
「パソコンは使い続けていると、不要なファイルがたまり、調子を落としていきます。
また、ハードディスクの中でファイルがバラバラに散らばっていき、ファイルの読み込みに時間がかかり、全体の動作速度も遅くなります。これを買ったときの状態に戻す“お掃除”の仕方を紹介しています。」

2行目は正しい。これはいわゆるフラグメンテーションのことを指している。
しかし,1行目は何を意味するんだ?
不要なファイルがたまると調子を落とすというのは,一体どんな状態を指しているのだろう。

この筆者は,コンピューターの動作原理を理解した上でこの記事を書いているのだろうか?

「最近パソコンが重くなった」と訴えてくるお客様は大変多い。そういうお客様の半分以上,いや,ほぼ全員が,
「やっぱり,最近ファイルを増やしすぎたせいでしょう?消した方がいいんでしょう?」と訊いてこられる。

ちがうのである。パソコンの動作が重くなる一番の原因はファイルが増えることではない。
件のPCビギナーの記事は,こういう誤解を正解として定着させてしまう恐れがある。実に怪しい。実にいい加減な記事だ。

実際,記事の中身をちゃんと読んでいないので,ここまで言うのは言いすぎかもしれない。しかし,少なくとも,タイトルや,上記の紹介文ではっきり「不要なファイルが調子を落とす」と名言している。これは許せない。こんなものを読んだ読者は,「ああ,やっぱりファイルがたくさんたまっていると遅くなるんだ」と思い込んでしまうではないか。

筆者に問う。どういうメカニズムで不要なファイルがパソコンに悪影響を与えるのか?そして,「調子を落とす」というのは,実際どういう状態を指しているのか?

先ほど書いたように,フラグメンテーションがシステム性能を悪化させることは分かる。
しかし,「最近重い」と感じるほどの,つまりは,体感速度として明らかになるほどのフラグメンテーションが,一体どれほどのユーザーでどの程度使い続けると発生すると考えているのか?

もうひとつ,ファイルが増えるとシステム性能が悪化する可能性がある。それは,ハードディスクが満杯に近づいた状態である。
しかし,この満杯に近い状態は,少なくとも残り空きスペースが数十メガバイトのレベルに至らないとならない。近頃のハードディスクは1TB近くあり,ノートの廉価品でも160GBはある。一体これを満杯近くにするユーザーがどこにどれだけいるのか?

もちろん映画やドラマ,音楽のような巨大ファイルをガンガンダウンロードしまくれば,こういう状況はすぐにでも起き得る。だが,こうなった場合は,システムが重くなるなんていう程度ではすまず,ほとんどまともに動かない状態に近づいていく。おそらく各プログラムの一時ファイルが作れなくなり,プログラム単位でエラーが多発し始めるはずだ。もちろん,システムもCドライブが満杯に近いという警告メッセージを出し始める。「重くなった」などという事態ではすまないはずだ。

ということで,どういう状況を想定してこの記事を書いているのか?これが謎だ。買って読みたいところだが,日本に行く用事もないし,ビギナー用の記事を読むほど私も暇じゃない。

システムが遅くなる一番の原因は,メモリ不足である。
メモリは経年変化で減ったりはしない。しかし,一般ユーザーにとって,パソコンを使い続けるということは,いろいろなアプリをときどき,かつだんだんにインストールしていくということと,ほぼ同義である。ときには,本人が意識していなくとも,いつの間にか,走らせているソフトが増えたりする。

特に重要なのが,Windows起動,あるいはLoginと同時に自動起動する常駐プログラムである。たとえば,Windows Live メッセンジャーも,普通にインストールすると,ログインと供に起動してタスクバー右端にアイコンが出ているだろう。こういうソフトは山とあり,タスクバーに出てくるものはむしろ親切であって,サービスとして裏で動いているプログラムはこれ以外にもたくさんあるのである。

それから,各ソフトも,アップデートしていくと,重くなる。つまりは必要なメモリ量が増える傾向にある。一番いい例がWindowsそのものである。うそだと思ったら,10年前のパソコンにWindows 7をインストールしてみるといい。ほとんど使いものにならないはずだ。まあ,これは極端だけど,各プログラムに自動アップデートなどで,セキュリティー強化だなんだという理由でどんどんアップデートがかかっていく。その度に,このプログラムは,前よりちょっとだけメモリを余分に使うようになると思って間違いない。

こうしてプログラムが増え,各プログラムに必要なメモリ量が増えると,とやがてメモリが不足し,スワッピングが多発するようになる。これがいわゆる「重くなる」ことの正体なのだ。もちろん,CPUパワーも取り合いになるから,各プログラムの速度も落ちる可能性があるが,常駐していても,常にガンガン走りまくるプログラムはないし,あればそれはウィルスかスパイウェアの類だ。まれに,プログラムのバグや不整合などで,特定のプロセスが暴走していることもあり得る。とにかくこれは,「重くなる」という範疇の現象ではない。

結論として,Cドライブを掃除することは,全く効果がないとは言わないが,的外れである。もし,体感上遅い,重いと感じるほどになっているのであれば,まずは常駐プログラムを疑い,タスクマネージャーを頼りに,不要なプロセスを一つひとつ,つぶしていくしかないのである。
この記事は一般ユーザーの誤解を助長する。

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