因縁と相性

信じられないことが起こった。ワラビーズが負けた。イングランドに負けた。見事に返り討ちにされた。全くワラビーズらしいラグビーをさせてもらえなかった。

ここまでは,受け入れ難いが,受け入れるとしよう。でも,もっと信じられないのは,同じ日にオールブラックスまでもが負けたことだ。しかも相手は,緒戦,地元応援団の下で,アルゼンチンに負けたフランスである。

どちらも因縁の対決,オールブラックスは8年前の準決勝,ワラビーズは4年前の決勝の敵討ちとなるが,どちらも返り討ちにされた形である。

実力を数字で定量的,かつ線形的に表せるとしたとき,実力指数と結果の点数は全く違う相関関係を見せるのがラグビーの恐ろしさだ。実力差が明白な場合,大差となり,時に100点以上の差が付く。伯仲している場合は,それなりの点数になるが,優勢のチームの実力を100,劣勢のチームの実力を90というふうに定量的に表せたとして,点差はたとえば30対27とかにはならない。多分,30対15というようなスコアになって現れるのだと思う。実際,自分がプレーしたことのないスポーツについて,こんな勝手な想像をすることはかなり僭越とは思う。しかし,今まで数多くのラグビーの試合を見てきて得た経験則として,こういうふうに思えるのである。

だから,ここに,当日の選手の気合,戦略とかを加味して考えると,ときに予想を覆す結果が待っている。

どんなスポーツでも,当日の気合,コンディション,戦略といったものが大きく影響する。しかしラグビーほど,これがシビアにスコアに響いてくるスポーツはないのではないか。

ワラビーズについても,オールブラックスについても,敗因を挙げればいろいろあるだろう。ワラビーズは,やはりフライハーフ,ラーカムの欠場が響いたなんていうことも言えるかもしれない。そして,それより何より,自分達のリズムがつかめず,最後まで相手に注文相撲を取らされてしまい,またそれによって大いに焦ってしまった。終了数分前にペナルティーを得たとき,無理な位置から,スキッパー,モートロック自らが,ペナルティーキックを試みたあたりに,この焦りが如実に現れている。あるいは,後半,レイサム,バーンズが無理な位置からフィールドゴールを狙ったり,あのグリーガンが,よせばいいのに,ノックオンを取られてからボールを奪い返そうとしてペナルティーを取られたり。何かに憑かれてしまったとしか思えない。どうして,前半に取れたトライを,冷静に,同じように取りにいけなかったのであろうか。

オールブラックスも同様だ。前半のきれいなトライ。これは自分達のラグビーをやっていれば,また時間内に必ず取れただろう。ところが後半からフォワード戦に固執した。悪いことにそれが一度うまくいってしまった。オープンラグビーがどうもうまくいかず,それならフォワード戦に切り替えようという頭が働いたのではないか。なぜ前半のきれいなトライは必ずまたできると信じられなかったのか?

裏を返せば,相手のしたたかさが見えてくる。イングランドはフォワードが,ほとんどできる限りの「悪事」をやった。反則を取られない,ギリギリのところで,やれることを全てやった。密集はとにかく突っかかれるだか突っかかり,こぼれ球を誘い,それを捨て身でことごとく盗った。スクラムでは,とにかく前に押した。押すだけではない。実際に第2列は,構わず前進した。第一列は崩れざるを得ない。しかし,これがレフェリーにどう映ったか。そして,これがワラビーズフォワードに与えた動揺は大きかった。

フランスのディフェンスもすごいのひとことだった。前半こそほころびを見せてしまったが,その後,オールブラックス自慢のオープンラグビーを辛くも止め続けた。

開催国の意地。ディフェンディングチャンピオンの意地。これが今日の2試合をひっくり返したのだと思う。

ああ,それにしても,ワラビーズとイングランドの試合は,なんともつまらない,フラストレーションだけが残る試合だった。トライを取ったチームが負ける。しかも2点差だ。イングランド戦というのは,いつもこういう展開というのは分っているが,今日はその中でも典型的な試合展開となり,結局,決定力に勝るワラビーズが1トライを取るも,ディフェンスはどちらも粘り,それ以上のトライは無し。あとは焦った分だけ,怒った分だけ,ワラビーズに反則が増え,それをウィルキンソンが点に換えていった。

世界ランキング1位と2位が1日にして沈んでしまった。ワラビーズが敗退した今,私としては興味が半減だが,このあと,残りチームでの優勝争いという意味ではますます面白くなった。イングランドには,残り試合では,見ていておもしろい試合をしてもらいたい。

それにしても,ワラビーズはイングランドと相性が悪い。1991年の決勝で勝ったが,それ以来,ワールドカップでは勝てていないのではないか?オールブラックスもフランスと相性が悪い。どちらもヘビににらまれたカエルのようだった。ちなみに,今日のオールブラックスはグレー基調のセカンドジャージーを着ていた。通常のジャージーがブラックスワンなら,今日はその雛のような色だった。ニワトリに雛がつつかれたようでもあった。

因縁の対決,4年後にまた見てみたい。

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